記号工研究室 >研究成果><食と記号:その1>

        <食>と記号

        田沼正也

           

          <食と記号:その1>料理のレシピはすごい!

        1.1 分かりやすい料理のレシピ

         男性が作る料理の定番といえば、カレーです。(密かな自慢ですが?)、私もカレーは作ることができます。肉、ジャガイモ、たまねぎやにんじんを使った標準のカレーや野菜を主体にした夏向きのカレー、大豆を使った豆カレーなど、いろいろなカレーを楽しんでいます。家族も、(仕方なく?)美味しいとほめてくれます。
         では、なぜ私のような会社人間だった男性が、料理らしきものを作れるのでしょう。それは、料理レシピのおかげだと思っています。以前は、クッキング用の本(我が家では、主婦の友社『カラークッキング』シリーズを愛用しています)、新聞や雑誌などの特集記事から料理のレシピを入手していました。今は、ウエブから簡単に料理のレシピを探すことができます。料理の種類も豊富で、私程度の腕なら、ウエブに掲載されているレシピで、充分間に合います。
         本のレシピもウエブのレシピもほぼ同じ形式、内容であり、次のようなものです(S&Bカレー.comにあったカレーのレシピより)。

          【材料】(5皿分)
          ・カレールー    100g  ・牛肉   200g
          ・玉ねぎ   中1・1/2個  ・にんじん  小1本
          ・じゃがいも     大1個  ・サラダ油 大さじ2
          ・水       700ml
          【作り方】
          @厚手の鍋にサラダ油を熱し、適当な大きさにきった肉、野菜をよく炒めます。
          A水を加え、沸騰したらアクを取り、材料が柔らかくなるまで弱火〜中火で煮込みます。
          Bいったん火を止めてルウを割り入れ、充分に溶かし再び弱火で煮込んでください。
          【栄養価】  カロリー  586kcal 他
          【調理時間】 30分

         あまり悩むこともなく、材料をレシピに従って用意し、作り方の手順に従って調理すれば大きな失敗はしません、また、調理時間は、自分の手に負える料理かどうかの判断材料になりますし、栄養価はメタボ対策に有用な情報です。
         料理レシピは理想的なマニュアルだと思うのは、私だけでしょうか。

        1.2 レシピが分かりやすいわけ
         パーソナル・コンピュータ、FAX、ビデオ・レコーダなどいろいろな機器の取り扱い説明書が分かり難いことが問題になり、メーカでは取り扱い説明書(マニュアル)の改善に力を入れ、大分良くなってきたようです。でも、何か問題が起こり、慌てて説明書を読むような事態になると、分かりにくいなあと感じることがあります。
         では、なぜ料理のレシピが分かりやすいのか、考えてみたいと思います。

        (1)レシピの統語体
         料理の本やウエブ上の料理レシピも、同じように構成されています。料理レシピの基本的な構成は次のようなものです。

        1. 料理の名称、特徴:味、外観
        2. 材 料
        3. 料理の手順:調理法(使う道具、煮るのか炒めるのか、火加減、その時間)
        4. 出来上がった料理の写真
        5. その他の情報:カロリー等

         どの料理レシピを見ても、この構成は変わりません。つまり、テクストの構造つまり統語体は、ほぼ確立されていると言えます。この安定性が、料理のレシピを安心して使えるものしていると思います。

        (2)レシピの様相
         料理のレシピは、言葉や写真などの記号の複合体つまりテクストです。記号は、それが意味また指示しているもの自体ではありません。つまり、表現であり、現実世界に存在するもの(実質)から分離しています。そのため、その確からしさを示す様相が問題になってきます。
         記号またはテクストの作成者の意図が充分に伝われば、その記号の様相は高いといえます。正確また精密に表現することは、必ずしも様相が高いとは言えません。

         では、料理のレシピはどうでしょう。私は、非常に高いと思います。まず、材料の説明部分ですが、そこに書かれている肉や野菜は、改めて調べなくても、すぐにイメージが思い浮かびますし、どれを補充しなければならないかも判断できます。時には、私が知らない調味料も出てきますが、家内に聞けばすぐ分かります。
         次に料理の手順ですが、鍋やフライパン、火加減や時間等も具体的に理解できますし、また実際に調理を行っているときには、自分のしていることが適切なものかが判定できます。また写真と自分の作った料理の比較また味から、出来映えは一目瞭然です。
         つまり、レシピが指示するものごとを、我々の実在世界のものごととを容易に結び付けられるところに、レシピの最大の特長があると思います。

         料理のレシピの統語だの様相だのと、仰々しい用語を使ってきましたが、これから取り扱い説明書やいろいろな説明書が備えるべき必要条件の一部が見えてきます。

        1. 説明書の要素とその構造(統語)が明確であり、分かりやすいものになっている。
        2. 説明書の指示するものごとを、我々の周りの実在世界のものごと(ディスプレイに表示されているアイコン等も含む)と容易に結び付けることができる。

         さて、あなたの周りにある取り扱い説明書、マニュアルはいかがでしょうか?

         (2009年2月9日)