秋間「というわけで、『新桜花市劇場(仮)』の最終回は、座談会形式で行うわよーん」

 一行、拍手。

秋間「えと、今回の新桜花劇場のお題は、『やりのこしたこと』でーす。皆さんが『メイドのココロ』の本編でやりのこしたことをこの場で思いっきりぶっちゃけてねン!」
鬼杏「ええ!?」
秋間「あら、どうしたの鬼杏ちゃん。素っ頓狂な声なんかあげて?
鬼杏「えっ……あ、いえ……、わたくしてっきり最終回は『大反省会』かと思っておりましたので……」
下田「ぶっ(口にしていたビールを思わず噴き出す)」
秋間「違うのよン。アタシたちが本編でやりのこしたことをぶっちゃけて、主催者にプレッシャーをかけるのが今回の目的よン」
鬼杏「そうなのですか……わたくしは反省会と聞き及んでおりましたので、マスターのために特別ゲストをお呼びしてしていたのですが」
秋間「特別ゲスト?」
夜宵「なかさまぁっ!!」
下田「げっ、夜宵!?」
鬼杏「はい、マスターの奥様で現在別居中の下田夜宵様をお呼びいたしました」
夜宵「なかさま、まずはそこにお座りなさい」
下田「……おい、夜宵」
夜宵「お座りなさい!!」
下田「はい」
夜宵「いいですかなかさま。そもそも警察官というのは市民の皆様の安全を守るのがお仕事なのですよ。プールで騒ぐとか悪臭騒ぎを起こすとか三流雑誌にでっちあげ記事を載せるとか、まして校内無差別格闘大会に出場するなんてもってのほかなのです。分かりますか?」
下田「……本編と関係ないことじゃないかソレ?」
夜宵「お黙りなさい!!!」
下田「はい」
秋間「ねえ鬼杏ちゃん、もしかしてこれが下田さんのやりのこしていたことなの?」
鬼杏「いえ、これはわたくしがやりのこしていたことですわ。わたくし、SDとしてマスターと生活を共にしていて、常々マスターの勤務態度や生活態度を諌めねばならないと思っていましたの。まさに絶好のチャンスですわ」
秋間「はあ」
鬼杏「そんなわけですから、わたくしたちは別室に下がらせていただきますわ。それでは皆様、ごきげんよう〜」

 手を振りながら会場を後にする鬼杏と夜宵。その手には無論夜宵の折檻でズタボロになった下田が引きずられている。

秋間「えーと、それでは気を取り直して……」
倉瀬「(アタリメを噛みながら)そうだな、私はどうせならもっと探偵らしいことをやりたかった」
秋間「あら、そうなの?」
なしの「探偵らしいといえば……例えば豪華列車で起きた殺人事件の犯人を捜したりとか、『まだらの紐』という謎の言葉を残して悶死した女性の死の謎に迫ったりとか、旧家の遺産相続に関する殺人事件に巻き込まれたりとか、旅先でなぜか必ず殺人事件に遭遇したりするのか?」
倉瀬「(ちっちっと指を振り)違うねなしのくん。もっと探偵らしい仕事があるではないか」
なしの・秋間「?」
倉瀬「そう、この世でもっとも探偵らしい仕事とは……『世紀の大怪盗との対決』だ!!」

 なしのと秋間、盛大にこける。

倉瀬「どうした、なにをこけている?」
秋間「いや……現実主義者のアンタから『世紀の大怪盗』なんて言葉が出てくるなんて意外だったもんで……」
倉瀬「そうか?(と、黒ビールを呷る)」
秋間「(小声で)ねえねえ、もしかして倉瀬ちゃん、酔っ払ってるのかしら?」
なしの「(小声で)そうであろな。あれでジョッキ6杯めだぞ」
倉瀬「だが、残念なことにやま気と創意のある者は犯罪者の中には後を絶った。私の仕事も、そのうち迷子の子猫を探すとか、女子中学生の恋愛相談にのってやるとかそんなものばかりになってしまいそうだ」
秋間「……ま、まあそれはそれで治安がよいことの証左なんだからいいんじゃなァい?」
なしの「世紀の大怪盗か。100年くらい前であれば、変装と盗みと、苦難に陥っている乙女に手を差し伸べることと、不逞な輩に天誅を下すことに己の才能のすべてを傾注する怪盗紳士がフランスにいたけど」
秋間「日本じゃそいつの三代目の方が有名でしょ。他に誰かいたかな?」
なしの「美術絵画専門のレオタード三姉妹とか、月下の奇術師とか……」
倉瀬「うう……私を本気にさせてくれるような犯罪者は、もうこの世界にはいないのか」
秋間「なしのちゃんはなにかやり残した事はないの?」
なしの「(日本酒の注がれた杯を傾けつつ)わたしは料理の腕を磨き、偉大なる料理人と料理勝負などしてみたかったぞ」
秋間「料理勝負……ねぇ……」
なしの「なんだそのジト目は。わたしは何もおかしい事を口にしておらぬぞ!」
秋間「……まあ、そういうことにしておいてあげる。で、なしのちゃんが戦いたい相手は、美食倶楽部の我侭オヤジ? それとも料理界を支配しようとする悪いグループの首領かしら?」
なしの「鉄鍋のジャンみたいなやつがよい」
秋間「あー……そう……(小声で)まったくこのコの趣味ってよくわかんないわねぇ」
倉瀬「そうだ、なしの。われわれは料理界を覆う暗雲をなぎ払う為に立ち上がらねばならないのだ!!」
秋間「わあ、何よいきなり!?」
倉瀬「よし、それでは料理界の明日を守るために特訓だ。まずは吊り下げられた牛肉の塊を一本の糸だけで解体する『白糸ばらし』をマスターするのだ!!」
なしの「はい、コーチ!!」

 夕日に向かって走り出す倉瀬となしの。

秋間「つーか、もう夜でしょ。まったく酔っ払いは仕方ないわねぇ……」
リュスカ「……」
秋間「あらどうしたのリュスカちゃん。さっきから黙っちゃって?」
リュスカ「ううん、なんでもない(と、カルーア・ミルクを飲み干す)」
秋間「?」
弓音「秋間っち、ちょっとこっちを手伝ってくれ!!」
秋間「どうしたの弓音ちゃん。そんなに血相を変えて」
弓音「実は、しゅーほーを人間ドッグに放り込もうとしていたんだけど」
秋間「人間ドッグぅ?」
弓音「しゅーほーのヤツ、あんな年寄りのクセに相当なオーバーワークしてただろ。だから一度人間ドッグに入って徹底的にメンテナンスしてもらってこいって言ったんだけど……あンの野郎そんなのはイヤだって言い張ってるんだよ!!」
秋間「……」
弓音「だから力ずくででも病院に連れて行こうとしてるんだ」
万景寺「誰があんな辛気臭い所に行くものか。第一その日はワシの新しい愛車の納入日じゃ。病院に閉じこもっているヒマなぞありゃせんわい」
弓音「あたしはしゅーほーの事を思って言ってるんだよ!?」
万景寺「自分の身体のことは自分がよう知っとるわい。ワシに検査など必要ない!!」
弓音「こんのくそじじい〜〜」
秋間「はいちょっとごめんあそばせ」

 音もなく万景寺の背後に近寄った秋間が、手刀を一閃させる。万景寺、あっさりと気絶。

万景寺「きゅう……」
秋間「アタシは女の子の味方なのよ。弓音ちゃんの頼みを無下にはできないわ」
弓音「ありがと秋間っち。ほんじゃ早速しゅーほーを病院に放り込んでくるわ!!」

 ぐったりした万景寺の身体を肩に抱え、弓音は部屋を後にする。

秋間「なんだかどんどん人が減っているわねぇ」
リュスカ「……ねえお兄ちゃん」
秋間「ん、なあに?」
リュスカ「……ううん、なんでもない」
秋間「?……ヘンなコね」
遠野「やっぱ最後は夢オチでしょ」
秋間「はぁ?……遠野ちゃん何言ってるの?」
遠野「だから、物語の最後を夢オチでしめるのが、私のやりのこしたことだったんです」
秋間「しかし……いくらなんでもそりゃマズいでしょ」
遠野「そうですか? 目が覚めたらそこは病院で、謎の医師から『君は17年前にとある海洋テーマパークでウィルスに感染しずっと昏睡状態だったのだ』とか言われるのって、マルチエンディングタイプのアドベンチャーゲームではけっこうありがちだとは思いません?」
秋間「そうかもしれないけど、それはどちらかというとバッドエンディングの方じゃないのかな……」
遠野「そんなわけで私はこの宴会を夢オチにするためにもう寝ます。おやすみー……」
みるふぁ「あらあら、こんなところでお休みになりますとお風邪を召してしまいますよ」
遠野「……むにゃむにゃ、もう食べられません……」
秋間「お約束な寝言ねぇ……希ちゃんは?」
「ボクのやりのこしたこと? そうだなぁ(少し考え)……心残りだったのはやっぱり、本業であるブティックでのお仕事が出来なかったことかな」
秋間「あら、希ちゃんってそんな仕事してたの」
「一応、呉服屋の娘だしねー……ファッション関連の仕事が好きだっていうのもあるけど。そうだ、キミ結婚の予定とかある?」
秋間「ぶほっ!!(盛大にワインを吹き出す)な、ないわよ!!」
「そっかー……もし結婚式あげるならボクがいろいろコーディネートしてあげるよ」
秋間「はは、ありがと。そン時はお願いするわ」
みるふぁ「わたくしはゆ〜にぃちゃんとユニットを組んで芸能界デビュウがしたいですわ!!」
ゆ〜にぃ「え、ええ?」
みるふぁ「さあ、ゆ〜にぃちゃん。この衣装に着替えてマイクを持って、ふたりでアイドルスタアの星を目指しましょう!!」
ゆ〜にぃ「え、わあ、きゃあ!!」
「その衣装用意したのボクなんだよ」
ゆ〜にぃ「希ちゃん余計な事を〜〜!!」
みるふぁ「それでは、わたくしとゆ〜にぃちゃんの新ユニット『M-U』のデビュー曲『メイドのキモチ』、みんな聴いてくださいね!!」

メイドのキモチ
作詞/作曲:みるふぁ

め め め メイドのキ・モ・チ
ご主人様には わからない


アナタの笑顔を 思いながら
素敵な朝食 ご用意します
真心こめて つくります
「美味しい」って言ってくれるかな?

寝ぼすけさんの ご主人様を
そっと起こしに いってきます
アナタの耳元 ささやくの
「はやく起きないと遅刻してしまいますよ」


(だけど)
ご主人様は
(とても)
ド・ン・カ・ンです
そっと陰から お慕いするだけ
これがホントの 隠恋慕(か・く・れ・ん・ぼ)


め め め メイドのキ・モ・チ
ご主人様に お仕えできて
わたし とってもシアワセなんです
め め め メイドのホ・ン・ネ
気づいてください わたしの気持ち
わたしのハート アナタに釘付け
め め め メイドのキ・モ・チ
誠心誠意 お仕えします
だってわたしは アナタのメイド

でも やっぱり ご主人様に
わたしの気持ち 伝えたい



 いきなり始まったメイドユニットのゲリラライブに、一同拍手喝さい。

みるふぁ「……決まりました」
ゆ〜にぃ「……は、恥ずかしい……」
「さて、本気でアイドルデビュウを目指すなら、これから特訓が必要ね」
秋間「……本気、なんだ」
「ゆ〜にぃちゃん、みるふぁちゃん。芸能界はイバラの道だよ。イヤなこともこれからたくさんあるかもしれない。それでも一度走り出したら前に進むしかないんだ。覚悟はできてる?」
みるふぁ「はい、マネージャー!!」
「(こっくりと頷いて)それじゃ、二人とも行くよ!!
みるふぁ「はい!!」

 夕日に向かって走り出す希とみるふぁ。ゆ〜にぃは有無を言わさず引きずられてゆく。

秋間「さっきと同じパターンじゃないの……」
前園「……アクションを一回出し忘れてしまいました」
秋間「わあ、前園ちゃん!! アンタいつからそこにいたの!?」
前園「……アクションを一回出し忘れてしまいました……アクションを一回出し忘れてしまいました……アクションを一回出し忘れてしまいました……アクションを一回出し忘れてしまいました……アクションを一回出し忘れてしまいました……」
秋間「いかん、暴走してる」
まつ「たあ!!」

 いきなり飛び出してきたまつ。ホウキの柄で思い切り前園の頭を殴る。

前園「うーん……」
まつ「おほほ、それではご免あそばせ」

 頭に大きなたんこぶをこさえた前園を小脇に抱え、そそくさと部屋を出て行くまつ。

秋間「な、なんなのよいったい……」
リュスカ「……お兄ちゃん……」
秋間「……どうしたのリュスカちゃん。さっきから様子がヘンよ。何か悩みがあるの?」
リュスカ「……(ごにょごにょ)」
秋間「なに、声が小さくて聞こえないわ」
リュスカ「……だから、わたしと、して」
秋間「してって……なにをよ?」
リュスカ「んもう、お兄ちゃんのドンカン!! 女の子が好きな男の人と二人っきりでいるのよ。何をしてもらいたいかくらい分かるでしょ!?」
秋間「いや、今は二人きりじゃなくてここに遠野ちゃんが眠っているわよ……って、遠野ちゃんいなくなってるし!!」
リュスカ「お兄ちゃんの態度が煮え切らないから、わたしもう待ちくたびれちゃったんだから!!」
秋間「わ、いきなり乗っかってこないでよォ!!」
リュスカ「お兄ちゃん……」

 秋間の目の前には、服の胸元をはだけ、うるんだ瞳で見つめてくるリュスカ。その瞳がそっと閉じられ、ゆっくりと秋間の顔に近づいてくる。

秋間「ちょ、リュスカちゃん……」
リュスカ「わたしのやりのこしたことは、『お兄ちゃんと一線を超える』こと。お願い、もうこれで最後なんだからリュスカの望みを叶えて……」
秋間「…………ダメぇ!!」

 秋間、リュスカを突き飛ばすように跳ね起きる。そして、宴会用の長テーブルを片手で引っつかみ、思い切り壁に投げつける!

一行「わあ!!」

 崩れた壁から出てきたのは、彼の仲間たち。

秋間「あーんーたーたーちー、そこで何やってんの!?」
前園「何をやっていたかというと、なあ」
まつ「その、なんと申しますか」
万景寺「何だか妙な音がするよって」
下田「心配になって様子を伺っていたんだ」
秋間「……それで、そのデジカメは?」
遠野「あ、いやみんなで一緒に記念撮影しようと思っていたんだけど……」
みるふぁ「ナイスアイディアでございます遠野様」
秋間「じゃあ、そのビデオカメラはっ!?」
弓音「こいつはその、なんていうか……」
鬼杏「後学の為と申しましょうか……」
秋間「ほっほう……後学ねぇ」
「だ、だから覗きはまずいっていったじゃないかゆ〜にぃちゃん!」
ゆ〜にぃ「そんなこと言ったって、希ちゃんだって見てたじゃないか!!」
秋間「アンタたち……覚悟はできてるでしょうねぇ〜」
なしの「なあクラウゼル。ひょっとしたらこの状況、極めて危険なのではないのであろか?」
倉瀬「私もそう思う」

 どか ばき ずど がし

リュスカ「……ちぇっ、残念」



 新桜花総合病院―
 「ところで鞠香君。今夜はやたらと怪我人が運ばれてくるが、いったいどうしたのかね?」
 「あ、坂井院長……何でも北町の居酒屋で暴行事件があったらしいですよ」
 「暴行事件? 随分と物騒な話じゃないか」
 「はあ、なんでもある女性を巡るトラブルが原因だったそうです」
 「女性を巡るトラブルねえ……」
 坂井はぶるると震えた。
 「それでこれだけの怪我人が出たというのか……怖い世の中になったものだ」





 ども、mayfirstです。
 最後の『新桜花劇場(仮)』は、ちょっと趣向を変えて座談会風に仕立ててみました。いかがだったでしょうか?
 あ、まちがっても普通の小説風に書くのが面倒臭かったからじゃないですヨ!
 ちなみにいちばん苦労したのは、察しはつくかと思いますがやはり『メイドのキモチ』でした。はじめは2コーラスめも書くつもりでしたが諸般の事情により1コーラスのみ掲載。決して時間がなかったからではありません。これ以上恥ずかしい歌詞を頭の中からひねくりだすのに、精神が耐え切れなかったからです。

 さて、今回で『新桜花劇場(笑)』は完結です。こんなしょうもないおまけコーナーに最後までお付き合いいただき、誠に有難うございました。それでは、『マスターより』でお会いしましょう。

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