ACT.2 試金石 〜メカニカルハートを信じて

 「だいぶ落ち着いたようじゃな」
 「そうだねぇ」
 新桜花総合病院の職員用食堂。早朝。万景寺秀峰(ばんけいじ・ひでみね)は、SDの弓音(ゆみね)と一緒に小休止を取っていた。
 先日起きた北町ホテルの爆発事故は、死者12人、負傷者200人以上の大惨事となった。死傷者のほとんどはホテルの従業員と宿泊客、そしてたまたまホテルの前を通りかかった通行人などだったが、中には爆風で割れたガラスで怪我をした南町の住人などもいた。爆発の原因は現在警察と消防が調査中。はじめはガス爆発だという警察の発表がなされていたが、現在は放火事件の線でも調べが進んでいるらしい。
 爆発直後から、新桜花市最大の病院であるここには多数の負傷者が運び込まれてきた。半数は徒歩やタクシーなど自力で来院できる程度の負傷だったが、重傷を負ったものや、意識不明のまま救急車で運ばれる者も少なくはなかった。
 Meグループ社への直訴の帰りに爆発―実際には爆撃―を目撃した万景寺は、直ちに弓音とともに現場に直行し、怪我人の救出に当たった。やがて消防とレスキュー隊が現場に到着し救出活動を開始すると、万景寺は自分のベンツに乗せられるだけの負傷者を乗せて総合病院に移動、今度は医師として続々と運ばれてくる負傷者の処置に専念したのである。
 「まったく、こんな騒ぎはレイテの戦いのとき以来じゃのう…」
 次々と運ばれてくる負傷者を、疲れた表情も見せずに処置していく万景寺の手さばきは見事の一言だった。また、負傷者の処置だけではなく、長年のキャリアで培った人脈を最大限に活用して新桜花市周辺の医師を総動員し
、さらには医薬品が不足する事態に備えて、かつて現役だったころに勤めていた病院から大量の医薬品を手配するなど、まさに八面六臂の活躍だった。死者が12人ですんだのは、あるいは万景寺の手腕によるものだったといっても過言ではない。
 総合病院の医師などからは、「ただのボランティアのやる事ではない、越権行為だ」などという批判が出たが、万景寺は耳を貸さなかった。
 「治療や処置が遅れれば、10人単位で死者が増えるぞ!」
 それはまさに厳然たる事実であり、また、このような緊急時において万景寺が出す指示は非常に的確なものだった。戦時の経験が役に立っているのだろう。院長の坂井も万景寺を全面的に信頼し、その行動に口出しすることはなかった。
 むろん、弓音や総合病院の11体のナースドロイドもフル稼働状態だった。中には旧型の掃除機よろしく、充電用の電源コードを引きずったまま作業にあたったナースドロイドもいた。
 そんなスタッフたちの夜を徹しての奮闘もあって、翌日の未明には大部分の負傷者の処置は完了していた。万景寺は自分が陣頭指揮をとる必要はなくなったと判断し、院長や他の医師たちに後のことをゆだねてのんびりと徹夜明けの休憩をとっていたのだ。
 「いやあ、こんなに働いたのは久しぶりだよ」
 弓音が自分の肩をぽんぽん叩くしぐさをする。SDの人工筋肉は「こり」や筋肉痛などは発生しないから、これはもちろん「ふり」に過ぎない。
 「ヌシもよく働いてくれた」
 しかし、万景寺はそのことを指摘することをせずにいたわりの言葉をかけた。
 「感謝するぞ」
 「あら、いつものしゅーほーらしくない優しいお言葉」
 「失礼じゃな。ワシは心優しい性格の持ち主なんじゃぞ」
 「へーへー、せいぜい感謝しときます」
 そういうと弓音は、テーブルにゆっくりと突っ伏した。
 「じゃあ、あたしは少し寝るから…後はお願いね…」
 バッテリー電圧低下によるスリープモードだった。万景寺はACアダプタを弓音の首筋に接続し、肩に自分の着ていた白衣をかけてやると、自分は椅子に深く座り込んでため息をついた。
 「…さすがに少し、疲れたのぅ…」
 「万景寺さん」
 ナースドロイドのひとりが声をかけてきた。
 「ん、なんじゃ?」
 「あなたにお客さん。お知り合いだそうですよ」
 「まったく…こんな朝早くに誰じゃ」
 やれやれと立ち上がる万景寺。充電中の弓音を置いてゆくのはちょっと気がかりだったが、客が来たから会ってくるというメッセージを彼女の枕元に残し、おぼつかない足取りで食堂を後にした。

 

 「なんじゃ、下田じゃないか」
 「お久しぶりです、万景寺先生」
 万景寺を訪問してきたのは、下田中将(しもた・なかまさ)だった。新桜花警察署の昼行灯刑事であり、万景寺の知人でもある。
 「お元気でしたか」
 「ああ、今はちと疲れておるがのぅ…」万景寺はあくびをかみ殺し、「こんなところで立ち話もなんじゃ。下の食堂ででも…」
 「ちょっと待ってください」
 下田は万景寺を引き止めた。「実は内密のお話があるのです…どこか、人気のないところはありませんか?」
 「内密の話じゃと…いったいなんじゃ」
 「ここでは人の目が…いえ、SDの目が多すぎます」
 「ふむ…SDの目か…」
 下田の言葉に引っかかりを感じた万景寺だったが、彼の真剣な表情を見る限り、その内密の話というのはどうやらただならぬ内容のものらしい。万景寺は少し黙考すると、「ついてこい」と手で合図した。
 万景寺が案内したのは、病院裏手の倉庫だった。不用品やガラクタがつまっており、病院の職員がくることは滅多にない。
 「ここなら大丈夫じゃ」万景寺は背後の下田の方を振り向いていった。「で、話とはなんじゃ?」
 下田はうなずくと、メモ帳とボールペンを取り出し、何事かを書き付けて万景寺に見せた。
 『念のため、これからの会話はすべて筆談でお願いします』
 「……」
 まるで誰かに聞かれるのを極端に警戒するような下田の様子に首をひねりつつも、了解する万景寺。
 『実は、さる事情があって鬼杏(ききょう)をしばらく預かってほしいのです』
 「…ふむ」
 万景寺は万年筆を取り出し、メモ帳に走らせた。
 『理由は?』
 『申し訳ありませんが、今はお話しすることはできません』
 下田の返答を見た万景寺は、彼の目をじっと見た。
 『ヌシは何をしようとしているのだ? 警察の捜査となにか関係あることなのか?』
 『警察の捜査とは関係ありません。自分は今、個人的な理由で動いています』
 『その理由はワシにも教えられぬのか?』
 下田は少し考え込んだ。
 『これから自分が行おうとしていることは、かなり危険であると考えられます。万景寺先生をそれに巻き込みたくないのです』
 「まったく…」万景寺は困ったように頭をかきむしると、下田の手から奪うようにメモを取った。
 『ワシの周りにはわからんことだらけじゃ。SD連続破壊魔に襲われたナースドロイドはMe社に回収されたきり戻ってこんし、あのホテルの爆発にしたってだな』
 とそこまで書きかけて、万景寺はふと手を止めた。しばし考え、こう書き加える。
 『ヌシは、ホテルの爆発事故の原因を知っておるか?』
 下田の答えは否。万景寺はさらに書き加える。
 『あれはガス爆発などではない。航空機からロケット弾かなにかで爆撃されたのじゃ』
 それを呼んだ下田の目が見開かれた。どうやら本当に何も知らされてなかったらしい。
 『実は今、私たちは何者かがホテルに時限式の爆弾をしかけて爆破したのではないか、という線で捜査を進めています。すでに犯人と思われる人物も目星がついていて、逮捕も時間の問題だと部下から連絡を受けていたのですが』
 『それは嘘じゃな』万景寺は決め付けた。『しかし厄介じゃのう。警察も当てにならないとなれば、ワシの弓音もいつ何時襲われるかわかったものではないな』
 ホテルへのミサイル攻撃は弓音も目撃している。ホテル攻撃の犯人たちが、証拠隠滅のために弓音を襲撃してくる可能性はじゅうぶんにあった。
 『ならば、鬼杏を護衛として使ってください』下田が提案する。『彼女はボディーガード型のSDです。並みの人間相手なら十分に対抗できるでしょう』
 『いや、むしろヌシの方が鬼杏が必要なのではないかな。ヌシがやろうとしていることはかなり危険なことじゃなかったかのぅ』
 しかし、下田は首を横に振った。
 『今回だけは、SDの鬼杏を同行するわけにはいかないのです。いや、むしろ彼女がいたほうがより危険なのかもしれない』
 下田の書いた一文を読んだ万景寺は、しばし黙った。鬼杏をはじめとするボディーガード型のSDは、限定的ながら格闘動作がプログラムされている。機体強度も他のタイプよりはるかに高い。危険なところに向かうのに、これほど心強い相棒は他といないだろう。
 しかし、下田は鬼杏がいたほうがかえって危険だという。それは、鬼杏すらかなわないような相手を敵に回したということなのか。それとも―
 (鬼杏を、SDを全面的に信頼していないというのか?)
 『ヌシは、鬼杏やSDがワシたち人間を裏切るかもしれないというのか?』
 下田がその問いに対する答えを出すのには、長い時間がかかった。
 『どうとも言えません』
 「……」
 『ですが、今回の件は我々人間とSDたちの間に真の信頼関係が築けるかどうかの試金石だと、自分は思います。今回の件で鬼杏が自分を責めたとしても、自分は弁解するつもりはありませんし、許しを請おうとも思いません。しかし、これだけは言えます。自分は鬼杏を信頼しています』
 『そうか…分かった』
 万景寺はうなずいた。『ヌシの鬼杏、ワシのところで預かろう』
 下田は深々と頭を下げた。
 『しかし、筆談まで使って会話しなければならないとは…ヌシの喧嘩の相手はいったい何者なのじゃ?』
 『正直なところ、分かりません』
 苦笑いを浮かべる下田。
 『より正確に言うと、敵の正体を突き止めるための戦いなのですよ』
 『その戦いの中で、SDたちが裏切る可能性があると、ヌシはそういうのじゃな?』
 その問いに下田は答えなかったが、しかし万景寺には、これから下田が立ち向かおうとする相手についておおよその見当がついていた。
 (そう、相手はおそらくMeグループ社じゃな…)
 世界じゅうの大都市に支社を持つ超巨大多国籍企業。弓音や鬼杏たちSDの開発・製造販売元。そして、ここ新桜花市の真の支配者…個人が喧嘩を売るには、ちょっとばかり大きすぎる相手である。勝率はきわめて低い。それでも下田には、戦わなければならない理由があるのだろう。
 (そう、おそらくは自分自身と鬼杏と、いや人間とSDとの間に真の信頼関係を結ぶためじゃろうな)
 運用試験が始まって半年が過ぎたSDであるが、一般市民への認知度はというと、実際の人間生活にかなり溶け込んでいるにも関わらずそれほど高くはないというのが現在の実情であった。くちさのない者はSDを「ダッチワイフ」扱いしていたし、そうでなくても、機械であるが故にどこか胡散臭い、あるいは信用できないところがあると漠然と感じている者はかなり多い。
 事実、万景寺が勤めるこの新桜花病院でも、スタッフのほとんどはナースドロイドに対し強い反感を抱いている。この病院でナースドロイドたちの『味方』というべき人間は、万景寺を除けば、導入を推進した坂井院長とごく一部の医師たちくらいしかいない。他のスタッフは、出来ることなら彼女たちを病院から追い出したいと考えているのだ。彼女たちのおかげで、特に看護士たちの負担が激減したというの事実があるのにもにも関わらず。
 もとはと言えば、看護士たちが自分たちの仕事がなくなるから、と言い出したのが事の発端ではあるが、問題の根はもっと深いところにあると万景寺は見ていた。
 「つまりは、人間は自分とは異質の存在を受け入れられないということじゃな…」
 弓音をはじめとするSDは機械だ。セラミックスの骨とバイオケミカルの人工筋肉を持ち、超伝導バッテリーに蓄えられた電気で稼動する。どんなに姿かたちや仕草が人間そっくりだとしても、決して人間ではない。
 そして、人間でない異質なモノを理解するのは、少なくとも今の人間にとっては不可能なことだ。機械の、コンピュータの思考は人間の尺度で測れないのだからそれは当然だ。そして、理解できないがゆえに、SDを排斥しようとする動きが社会のあちこちで生まれてきているのだろう。
 「まったく…嘆かわしいことじゃ」
 暗澹たる気持ちを抱えながら、職員用食堂に戻る。弓音は相変わらず静かに寝息を立てていた。
 「…待てよ…」
 弓音の寝顔を眺めていた万景寺は、ふとあることに気がついた。
 確かに人間はSDのことを理解することは根本的に出来ない。では、SDは、彼女たちをコントロールするハイパーコンピュータは、人間のことを理解しているのだろうか。もし理解しているのなら、コンピュータは人間のことをどう思っているのだろうか?
 「弓音…ヌシはワシたち人間のことを信頼しておるのか?」

 

 万景寺と別れた下田は、その足で前園薫(まえぞの・かおる)の自宅に向かう。移動の手段は自家用車を使っていた。今回は署の車は使っていない。今の下田が警察の指揮を離れて独自に行動しているからということもあるが、署の車を使わない最大の理由は盗聴装置がついている可能性を考慮してのことであった。
 事の発端は、昨日の夜に前園から持ちかけられた相談であった。
 昨日の夜、前園のSDまつ(まつ)がフリーズし緊急停止するという出来事があった。滅多にないことではあるが、思考プログラムに過大な負担―たとえば心配事や恐怖心など―が掛かった場合、それがあまりに大きすぎるとSDに振り分けられた演算能力で処理しきれなくなり、それが原因でSDの機能が緊急停止してしまうことがあるのだという。そう前園たちに説明してくれた鬼杏は、さらにこう付け加えた。
 「つまり、人間が恐怖のあまり気絶してしまうというのと同じことです」
 それだけなら問題はなかったが、しかし、まつ機能停止の直後にまるで見計らったようなタイミングで前園の携帯端末に送られてきたまつ回収のメールは、前園や下田を大いに困惑させた。回収の理由はプログラムのバグが発見されたためという事であったが、プログラムのチェックだけならわざわざSDそのものを回収する必要はない。
 どうも奇妙な話だと思いつつ、署に報告を終えて前園の家に戻ってきた―彼は前園とまつの身辺保護の任に就いている―下田は、そこでさらに奇妙な話を前園から聞かされることになる。
 「…つまり、Meグループ社は信用できないから、調整は自分たちにまかせて欲しいと、そういう内容なんですね」
 「はい」
 その夜、前園宅に届けられていた手紙には、にわかに信じられないような内容が書かれていた。Me社にまつを回収されたが最後、二度と手元には戻ってこないだろうということ。Me社はSDを使ってとんでもないことをしようとしているということ。それを阻止するために自分たちは動いているということ。そのためにまつの調整を自分たちに任せて欲しいということ…。
 「しかし、ディジタルウェブとSDが自分たちを監視するための道具なんだというのは、このSとかいう差出人はずいぶんと想像力が豊かですな」
 「そうとも言い切れません」
 前園は反論した。実際、SDとディジタルウェブの組み合わせというのは、町の中を監視するのにうってつけなシステムなのだ。なにしろSDはその性質上、ユーザーの生活のかなり深いところまで関わっている。据付型の防犯カメラでは見ることの出来ない、個人の立ち入った事情もたやすく手に入れることが出来るだろう。SDの目を通して得た個人のプライバシーをどのように保護するのか―それがSD開発時に最もネックになった問題のひとつだったと前園は聞き及んでいた。
 「フム」と、下田。「では、前園さんはいかがするつもりで」
 「この手紙の内容を信じてみようと思います」前園は手紙に目を落としながら言った。「手紙の内容はいちいちもっともだと思いますし、それに、オレはまつを失いたくない…」
 下田にしてみれば、あまりに辻褄の合いすぎる手紙の内容にかえって不安感を覚えるのだが、まつのユーザーである前園がそうすると決めたのなら、下田に反対する理由はない。それに行き詰まりを見せていた事態を進展させるには、こちらから何らかのアクションを仕掛けなければならないと考えていたというのもあった。『Sからの手紙』は状況打開のまさに格好の好機だった。
 だが、問題もあった。下田のSD鬼杏の存在である。
 手紙の内容を全面的に信じれば、この件に鬼杏を同行させるわけにはいかなかった。たとえSDが監視うんぬんの話がSなる人物の妄想だったとしても、鬼杏がいる限り連中は絶対に自分たちの前に姿を現そうとしないだろう。何とかして鬼杏に怪しまれないようにこの場から離れてもらわなければならない。
 そこで下田が思いついたのが、知り合いの医師である万景寺に鬼杏を預けるというものだった。万景寺なら信頼できる人物だし、それに鬼杏も彼のことをよく知っている。預ける理由も、例えばナースドロイドや弓音の護衛のためとかにすれば鬼杏が不審に思うこともないだろう。なにしろSD連続破壊事件の被害SDの中には、総合病院のナースドロイドもいたのだ。そのための護衛を必要としているというのは不自然な話ではない。
 そこで下田は朝早くに万景寺のもとを訪れ、鬼杏をしばらく預かってもらうように話をつけに行ったのである。無関係の人間を巻き込むわけには行かないのと、手紙の主である『S』があまりこの件を他人に知られたくない様子だったので、手紙の件はあえて伏せていたのだが、それでも万景寺は何か感づいた様子だった。
 (SDが自分たちを裏切る…か)
 前園の自宅に到着する。エンジンを止めて車を降りると、鬼杏が玄関から出迎えに出ているのが見えた。
 「おかえりなさいませ、マスター」
 長い漆黒の髪に白い肌、額には小さな角が2本生えている。下田の格闘流派『野門流』の口伝に伝わる鬼の姿が彼女のモチーフだ。しかし、恐ろしげな風貌とは裏腹に、彼女の金色の瞳は本当に優しそうに下田のことを見つめている。
 (嘘をついてるような目ではないが…しかし)
 しかし、鬼杏は人間ではない。高性能電子頭脳によって操作される機械だ。機械に人間の常識や感覚が通用するとは思えない。自分のこの行動は、あるいは鬼杏が自分をいずれ裏切るということを前提にしてのものなのではないだろうか…
 「…鬼杏」
 「はい、マスター」
 「すまないが、これから万景寺さんのもとに行ってあの人の手伝いをして欲しい」
 鬼杏は首をかしげた。「前園様の護衛はよろしいのですか?」
 「うむ、まつさんはMeグループ社に預けることだし、前園さんとお子さんの二人くらいなら自分ひとりでも十分面倒を見られる」
 「しかし、わたくしはメディカルサポート型ではございません…」鬼杏の表情が曇る。「わたくしが病院へ行っても何かお役に立てるのでしょうか?」
 「…実は例のSD連続破壊事件でナースドロイドが1体破壊されてから、ナースドロイドたちも次は自分じゃないかと相当不安がっているようなのだ。そこで鬼杏には彼女たちを護衛を頼みたいのだよ」
 ぽん、と鬼杏の肩を叩く下田。
 「万景寺さんには話をつけてある。自分のことは心配しないで、手伝いに行ってくれないか?」
 「そうですか…かしこまりました」
 一礼する鬼杏。どうやら、下田の言葉をうまく信じてくれたようだった。
 「それでは、さっそく行ってまいります」
 「気をつけてな」
 鬼杏を玄関先で見送る下田。やがて彼女の姿が見えなくなると、下田は、ふうとため息をついて腕時計を見た。
 時計の針は午前5時56分を差している。Sとの約束の時間まで、あと少し。
 「さて…これからが本番だ」

 

 午前9時。
 Meグループ社のサービススタッフが前園家のインターフォンを押す。
 しかし、反応はない。何度か繰り返したが、いっこうに家人が出てくる様子はなかった。
 「…まだ寝ているのでは?」
 後ろに控えていたもうひとりのサービススタッフが言う。
 「それにしては様子がおかしい。お前は裏を確認して来い」
 「了解」
 しばらくして、家の裏手の様子を見に行ったサービススタッフが戻ってくる。
 「どうやらもぬけの殻のようです」
 「そうか…」
 少し考えると、サービススタッフはポケットから携帯端末を取り出した。
 「こちらss-1。ターゲットをロストした。家には誰もいない」
 『了解した。現在スカイマーク01がターゲットのコントロール波をサーチしている。ss-1は直ちに帰投せよ』
 「了解だ」
 サービススタッフは携帯端末をしまうと、同僚とともにサービスカーに乗り込んだ。
 「俺たちはどうするんだ?」
 「帰投しろとの命令だ」
 運転席側のドアを閉めたサービススタッフが、フンと鼻を鳴らした。
 「ヤツが…村上が動き始めたぞ」

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