ACT.1 大学にて 〜新たなる探索者

 私立新桜花大学。
 新桜花市の郊外にある、広大な敷地面積をもつ総合大学である。マイクロエレクトロニクスグループ社傘下の高等教育機関で、今まで母体となるMe社に多くの幹部候補や上級技術者を供給してきた。入学するのも卒業するのも大変難しいとされており、学生たちは並々ならぬエリート意識―選民意識といってもよい―を持っていることでも知られている。
 とはいえ、学生数が数千人にもなると中にはそんなエリート意識とは無縁な人間も現れてくる。例えば、秋間顕一郎(あきま・けんいちろう)などがそうである。
 「両の手を胸元で組み合わせて、脇を締めて、瞳をうるませながら…そう、いい感じよぉ!」
 まるで新人役者に演技指導する振付師のような口調で、秋間が言う。彼は今、自分のサーバントドロイドであるリュスカ(りゅすか)に、『男に知っていることをすべて白状させるための演技』を教え込んでいた。
 「んー、すばらしい!」
 「ほんと?、お兄ちゃん?」
 リュスカの顔がぱぁっと明るくなる。
 「んーもう完璧! これで知っていることを話さないヤツは男じゃなくてよ」
 自身ありげにうなずく秋間。背の高い、スレンダーな体型にオネエ言葉が妙に合っている。
 「それでは早速宮川ちゃんを探しにいくわよ!」
 「りょうかいです、お兄ちゃん!」
 リュスカがぴっと敬礼する。全然形になっていないのが返って可愛らしい。
 新桜花大学の学生であり、また、『サクラモール』の経営責任者の御曹司でもある宮川みづき(みやかわ・みづき)が、高校生の少女と駆け落ちして行方をくらました事件は、すでに新桜花大学の学生たちの知るところになっていた。しかしながら、その事件に関する学生たちの反応はといえば、大半が無関心か、あるいは「馬鹿なことをしたものだ」と冷笑を浮かべる程度のものだった。中には、事実上ライヴァルがひとり減ったことで、あからさまに喜ぶ人間もいた。
 しかし、秋間は違った。
 「宮川ちゃんは別にどうでもいいけど、一緒の女の子には不幸になってほしくないのよねえ…」
 天性のフェミニストである彼は、心底相手の少女・深大寺ゆかりに同情したのである。そして、二人の恋愛を成就させるために、自ら動くことを決意したのだった。
 (…それに、昔、似たような二人を間近で見たことだしね…)
 秋間の両親は、彼が幼いころに蒸発している。周囲から仲を反対されてのことだった。両親が自分のことを捨てていったことに関しては、いまさら恨んでもしょうがないと半ば諦念しているが、自分のような人間を将来生み出すようなことは絶対に防がねばならない。
 「ん、どうしたのお兄ちゃん?」
 いつになく険しい表情の秋間に、リュスカが不思議そうな瞳で秋間の顔を見上げる。秋間は、いつものように陽気な笑顔を取り戻すと、首を横に振ってリュスカの頭をくしゃりと撫でた。
 「なんでもないわよ」
 「そう?…ならいいんだけど」
 心配してくれて有難うとばかりに、ぽんぽんとリュスカの頭を軽くたたいた秋間は、今度は真剣な表情で考え込んだ。
 「さて…それではどこから攻めようかしらねぇ…とりあえずは研究室の仲間あたりかしら?」
 「宮川さんって、何を専攻していたの?」
 リュスカの疑問に、秋間はニヤリと笑った。
 「アタシと同じ、電子工学よ」

 

 「…ところでですね…」
 伊吹まどか(いぶき・まどか)は大学構内の廊下を歩きながら、傍らの男に聞いた。
 「なぜ相馬がこんな場所にいるのですか?」
 相馬、と呼ばれた長身の男は、彫りの深い顔に穏やかなな表情を浮かべながら答えた。
 「あなたの傍に私がいるとご不満ですか?」
 「そんなことはないけど…」伊吹は相馬から目をそらしてうつむく。「でも、家での仕事があるのでしょう?」
 「大丈夫、ご主人様から外出の許可は得ています」
 「でも…」
 「私もまどかの傍にいたかったのですよ。それ以上の理由はございません」
 「え、でも私は…」
 真っ向から恥ずかしい台詞を口にされ、伊吹は顔を真っ赤にする。それを見た相馬綾(そうま・あや)はにっこりと笑った。
 「なにしろ、私はまどかのサーバントドロイドなのですからね」
 「…もう、意地悪なんですから!」
 伊吹は、怒ったような表情を浮かべると相馬のたくましい胸を両のこぶしでぽんぽん叩いた。相馬は「ははは」と笑いながらしばらく伊吹のするがままにさせていたが、不意にその両手をつかんで廊下の壁に押し付けた。
 「え、ちょっと…」
 「んー…」
 「ま、待って、こんな場所でいきなり…」
 「大丈夫、周りには誰もおりませんよ」
 「いや、そうではなくて、こんなこと…いけませんわ」
 「こんなことって…こういうこと?」
 「あ、いやぁ…やめてよぅ…」
 「やめるの? ここはもうこんなになっているのに?」
 「ば、変なこと言わないで!」
 実際は伊吹のふわふわの巻き毛を撫でているだけなのだが、相馬の思い切り誤解を招きそうな台詞の連発に、伊吹は慌てていた。ただでさえ相馬はナイトライフサポート型のSDなのである。こんな事を他の誰かに聞かれたらあらぬ誤解を受けるどころの話ではない。
 そして、ここにあらぬ誤解をしまくっている人物がひとりいた。
 「…しししし神聖な学び舎でああああんなことをしてもよろしいのでしょうか…」
 二人の台詞を物陰に隠れながら聞くとなしに聞いていたロベルタは、顔どころか耳まで真っ赤にしながら呟いた。
 「わわわ、私めの故郷アグジェリアでは、ああああーんなこととかここここーんなことは許されませんです…」
 頭をよぎる様々な妄想に、両手をほっぺにあてて顔から湯気をだすロベルタ。とても先日、ゆ〜にぃ相手に日本刀を振り回した人物と同一人物とは思えないような言動である。
 「あン、もうやめてってばぁ…」
 「まどかの身体はそうはおっしゃってませんよ」
 「…ででででも、ちょ、ちょっと気になりますわね」
 甘い言葉の応酬に、思わずあの様子を伺おうと物陰から身を乗り出すロベルタ。
 「こ、これはけっして覗きではございませんことよ。ね、年長者としてこここんな場所でああーんな事をしてはいけないということを注意しなければ…」
 「ねえお兄ちゃん、あの二人なにしているのかな?」
 「女性をからかうのはあんまり歓心しないわねぇ」
 「う、うわわっ!」
 突然背後から聞こえた会話にあわててあとずさるロベルタ。
 「な、何者!」
 「何者とはご挨拶ね」
 秋間は頬に手を当ててふうとため息をつくと、「アタシは秋間顕一郎、この大学の学生よ。そしてこのコは…」
 「お兄ちゃんのSDのリュスカです」
 リュスカがぺこんと頭を下げる。
 (この二人…私めにまったく気配を感づかせなかった!)
 ロベルタは戦慄する。表面上はにこやかに笑っている二人だったが、彼らは歴戦の兵士である彼女にまったく気取られることなく背後に忍び寄ったのだ。もし彼らがロベルタの命を狙う暗殺者だったら、まず間違いなくその任務を達成できた事だろう。
 「…いったい、私めに何の御用ですか?」
 油断なく構えながら、ロベルタが尋ねる。
 「それはこっちの台詞」しかし秋間は、あくまでにこやかな相好を崩さない。「なんでも、メガネをかけたメイド娘が宮川みづきのことを嗅ぎまわっているっていう話をさっき耳にしたのよねぇ」
 「…それで?」
 「それで、なんの目的で宮川ちゃんを探っているのかちょおっと教えてもらいたくて、アンタを探し出したわけなのよ」
 ロベルタは、警戒を緩めずに答えた。
 「…私めは宮川家の使用人にございます。旦那様の命を受けて、行方不明の若様を探しているのです」
 「なるほど」それを聞いた秋間はうなずく。「アンタもアタシたちと同じく、宮川ちゃんを探しているのね」
 「あなたたちこそ、なぜ若様を探しているのですか?」
 「そうねぇ…不幸な恋人たちを見捨てることが出来ない、といったところかしら?」
 「恋人だと!」
 秋間の答えを聞いたロベルタが激昂する。「若様はあの泥棒猫に騙されているのだ! 恋人同士なはずがない!」
 「そうかしら?」
 「そうに決まっている!」
 ロベルタは決め付けた。さっきまでの冷静さは微塵もない。
 「あの泥棒猫から若様を取り戻すのが私めの使命なのだ! もし私めの邪魔をするというのであれば…」
 「邪魔すると、どうなのよ?」
 スカートの中から日本刀を取り出して秋間に突きつける。「斬る!」
 「まあ怖い」
 おどけてみせる秋間。しかしその口調とは裏腹に、表情は厳しさを増していた。ロベルタの目を見て、その言葉が本気であることに気づいていたのだ。若様のためには殺人をもいとわない。そんな覚悟を秘めた、戦士の目。
 二人の間に緊張が走る。
 「むー…」
 それまで黙ってロベルタのことを観察していたリュスカが、突然大声を上げた。
 「わかったぁ! あなたその宮川さんのことが好きなんでしょう!?」
 「…へぇっ?」
 リュスカにびしっと指を突きつけられたロベルタが、思わず日本刀を取り落とす。
 「そそそそそそそんな違います! わわ私めはどこにでもいるごく普通の使用人でございまして、若様に恋愛感情を抱くなどそそそそんな恐れ多いことは…」
 「わ、わかりやすい人ねぇ」
 反対側の廊下の壁まであとずさったロベルタに、さすがの秋間も呆れ顔。「でも、いいことを聞いたわね」
 「な、なんですの?」
 動揺を隠せないロベルタに歩み寄った秋間は、すっと手を差し出した。
 「どう? アタシたちといっしょに宮川ちゃんを探さない?」
 「…いきなり何を言い出すのです?」
 「アタシは野郎はともかくとして、女の子が不幸になるのは放っておけない性質なのよ」
 優しい表情で秋間が言う。
 「まあ、アンタがご主人様の命令という理由だけで二人を探してるんだっていうのなら、さすがにアタシも黙っちゃいないけどね。アンタが恋する乙女なんだというなら話は別。宮川ちゃんがどっちを選ぶかはそのときになってみないと分からないけれど、とにかくあってみて白黒つけとかないと、アンタも浮かばれないでしょ?」
 「……」
 「それに、この手の仕事は大勢でやった方がはやく解決するわよ。どっちみち宮川ちゃんを探さないといけないんだから、お互いに足を引っ張り合うよりは、共闘したほうがマシなんじゃないかしら?」
 「……わかりました」
 秋間の提案の真意を推し量るように、しばらく無言で秋間の目を見ていたロベルタだったが、やがて咳払いをひとつすると、改まった様子でうなずいた。
 「あなた様の言葉に嘘はないようです。協力いたしましょう」
 「アタシは女の子には嘘をつかないのよ」
 握手を交わす二人。それを見たリュスカが「すごーい、感動したー!」といいながら拍手する。
 「あのう…」
 「わあ、びっくりした!」
 いきなり3人に声をかけてきたのは相馬だった。傍らには先の会話が聞かれていたことに気づいた伊吹が真っ赤な顔でたっている。
 「なんなのよいきなり」
 リュスカやロベルタとの会話の時とはまったく違う、きわめてぞんざいな口調と態度で、秋間が答える。彼は男相手に話すときにはいつもこうなのである。
 「その宮川様の探索に、私たちも加えていただけませんか?」
 「何故アンタを混ぜなきゃいけないのよ?」
 いきなりの提案に今度は秋間は疑いのまなざしを向ける。見かねた伊吹が相馬の袖を引っ張った。
 「だからいったでしょう? 無関係の私たちがいってもこの方々にご迷惑をおかけすることになるだけだって」
 「まどか…」
 いつになく真剣な表情で、相馬はマスターの顔を見た。
 「彼らが今追っている宮川という人物と、私たち、いいえ私は、決して無関係ではないのです…」
 「それってどういう…?」
 「今はそれしか申せません」そう言う相馬の表情は、なぜか苦しそうなものだった。「ですが、これは私とまどかの関係にとっても重要なことなのです。ですから、今回だけは私の我侭をお許しください」
 「ちょっとちょっと」
 秋間が二人の会話に割り込んだ。「アタシを無視しないでちょうだいよ。それに宮川ちゃんの駆け落ちとアンタたちにどんな関係があるというの? 宮川ちゃんの知り合いなの?」
 「いえ、その宮川という人物とは面識はございません」
 「だったら…」
 「いずれ時がたったら、貴方がたにすべてお話しいたします。ですが、今はまだ何も申し上げられないのです」
 「それはちょっと調子がよすぎるんじゃないかしら? 理由を話してくれないと、アタシたちとしてはアンタたちを信用するわけにはいかないわよ」
 秋間からすれば当然の対応である。相手がM型SDであるということを差し引いても、いきなり仲間に入れてくれといわれて、「はいそうですか」と軽々しく返事できるわけがない。しかも相馬というこのSDの言葉によれば、宮川と彼には、マスターにも話すことが出来ない何らかの関係があるらしいのだ。これで信用してくれというほうに無理があろう。
 だが、ここで意外な人物が助け舟を出した。リュスカである。
 「お兄ちゃん…この人たちのこと、信じてあげようよ」
 「リュスカ…」
 リュスカの言葉に、秋間が戸惑う。
 「この人の言っていることは本当だよ。それに、わたしだって無関係じゃないんだから…」
 「……」
 リュスカの表情もまた、相馬と同じく苦しそうなものだった。マスターである自分に隠し事をしていることに後ろめたさを感じているのだろうか。では、その隠し事とはいったい何なのか?
 「オーケイ」
 今ひとつ釈然としない気分だったが、秋間はうなずいた。「今回はリュスカに免じて特別に許してあげましょ。感謝しなさいよ」
 「ありがとうございます」
 相馬は深々と頭を下げた。
 「さて、メンツもそろったところで、もう少し情報が必要ね…」
 そう言った秋間は一同をぐるりと見回した。
 「まずは手分けして宮川ちゃんの行きそうな所を聞き出しましょう。1時間後に食堂で集合ね。OK?」
 一同はうなずき、それぞれ散っていった。

 

 1時間後。一同は学生食堂に集合していた。
 「どう? 何かわかった?」
 「若様はかなり優秀な方なのですね…」
 うっとりした口調でロベルタが話す。「人工知能ソフトの研究をなさっていたらしいのですが、Meグループ社の開発部からもすでに引き合いがあったと、友人の方々が申しておりました」
 「…アンタ、自分の好きな男がなに研究してたのかもわからなかったの?」
 呆れ顔で秋間が言うと、ロベルタの顔がさっと赤く染まる。
 「その…家では学校のことはほとんどお話しにならなかったもので…」
 ロベルタの集めた情報によれば、宮川はサーバントドロイドの開発にも携わっていたらしかった。その能力は仲間内でも一目置かれる存在だったらしい。このまま行けばまず間違いなくMeグループ社の上級技術者への道が開けていただろうというのが、研究室仲間の一致した見解だった。
 「それが何故あのような小娘にうつつを抜かして駆け落ちなどしたのか、せっかくの将来をふいにするなんてもったいないことこの上ない、とも申されてましたわ」
 ロベルタはふう、とため息をつく。「まったくもって同感でございます」
 「…そちらは」
 秋間は伊吹の方を向く。
 「私たちはあまり…」伊吹が申し訳なさそうにうつむく。「村上という方と頻繁に会っていたということはわかったのですけど…」
 「村上…」「ですか…」
 リュスカと相馬がそろって複雑な表情を浮かべる。伊吹がそれを見咎めた。
 「知っているのですか?」
 「知っているも何も」相馬が苦笑交じりに答える。「私たちサーバントドロイドの生みの親ですよ。村上竜三(むらかみ・りゅうぞう)博士。Meグループ社技術開発部主任…今では元がつくのですが」
 「元?」
 「行方不明なんです」リュスカが付け加える。「ちょっと前に突然行方不明になって…今、Meグループ社でも行方を捜してるんです」
 「そんな話は初耳ですね」
 ロベルタが首をかしげる。
 「若様を探すために新聞やニュースはすべてチェックしていたのですが…」
 「ほら、あれじゃないですか? 誘拐事件とかでよくある人質の安全を守るための報道管制とか」
 「どうかしら?」
 伊吹の意見に秋間が異を唱える。
 「まず第一にその村上という人物が行方不明の村上博士と同一人物だと決まったわけではないわ。第二に、仮に同一人物だとしても誘拐された確証があるわけではない。それに報道管制を敷くなら、リュスカが「行方不明」なんて口にするはずがないわ」
 「ご、ごめんなさい」
 伊吹が身体を縮める。
 「別に謝る必要はないんだけどね…もしかして気を悪くした?」
 「いえ、そんなことはありませんけど」
 「でも、どうしてリュスカと相馬ちゃんがそんなことを話せるわけ? いくらアンタたちがMe社の製品だからって、そんなお家の事情まで人工知能にインプットするとはとても思えないんだけど?」
 秋間に指摘されたリュスカと相馬は、顔を見合わせた。
 「そういえば…わたしなんで村上博士が行方不明だなんて話しちゃったんだろ?」
 「確かに…秘密じゃなかったのですかね、この情報は」
 リュスカと相馬が顔を見合わせる。なぜ自分たちがそんなことを知っていて、しかも外部の人間に喋ってしまったのか本人たちもわからないらしかった。
 「ふーん、ちょっと引っかかるわねぇ」
 秋間があごに手をやる。
 「アタシが聞いたところでは、人工知能の研究のために総合病院をたびたび訪れていたらしいわ」
 ただし、何故総合病院を訪れていたのかは、周囲の人間もわからなかったらしい。秋間自身は、人工知能の研究に大脳生理学を応用するためではないかと考えていたが、なにもわざわざ外部まで出向かなくても、新桜花大学には医学部もあるのだ。そこが秋間の考えのネックだった。
 「やっぱりそこがどう考えても不自然なのよねぇ」
 缶コーヒーを飲み干した秋間が呟く。ロベルタが聞いた。
 「で、いかがいたします? 秋間様」
 「そうねぇ…」
 秋間はしばし考え込んだ。「やっぱり総合病院にいってみた方がいいかもねぇ」
 一同がうなずく。
 それにしても―と秋間はひとりごちた。最初は駆け落ちした二人の仲を周囲に認めさせるために一肌脱ぐつもりだったのだが、ここにきてずいぶんと話が別の方向に逸れてきたものだ、と思う。さっきは宮川と会っていた村上なる人物と行方不明の技術者は同一人物とは限らないと伊吹に話した秋間だったが、宮川がSD開発にタッチしていたというロベルタからの情報を考えてみれば、また村上の名前を聞いたリュスカと相馬が、何の根拠もなく村上博士と断定していたことも合わせると、おそらく宮川の会っていた村上という人物はその行方不明の村上博士だとみてまずまちがいない。
 SD開発に携わった宮川と村上の関係。相馬のいった「宮川と自分は無関係ではない」という言葉。その裏になにが隠されているのかはわからないが、一筋縄ではいかないことは確かだろう。
 「一筋縄ではいかない、といえば…」
 ロベルタのの件もそうであった。彼女が思いを寄せている若様には、別の好きな娘がいるのだ。いっしょに駆け落ちを決め込んでしまうほど愛している娘が。正直な話、この勝負にロベルタに勝ち目があるとは到底思えない。ロベルタのような性格は決して嫌いでないのだが、この先宮川とロベルタが出会った時のことを考えると、今から頭が痛い秋間だった。

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